寺垣プレーヤー
「レコードの溝は数百ワットものエネルギーでカッティングされている」
私がオーディオ機器の開発に踏み込むきっかけは、レコード溝が考えられないエネルギーを込めて彫られていることを知ったことから始まります。それまで機械技術者として活動をしてきたため、「0.1ミリの溝を掘るために、数百ワットというエネルギーを費やすこと」が、工学的に明らかに過剰性能であると感覚で理解できたのです。しかしその過剰なエネルギーは、レコードを作る人々の情熱そのものであると私は感動しました。
そうやって造られたレコードの溝はおそらく膨大な情報を持っているに違いない。そして当時のプレーヤーは、その溝の潜在能力を引き出しきれていないのではないか?このレコードの情報を極限まで正確に読み取るプレーヤーを作りたい。そんな気持ちから、私はプレーヤーの開発を始めることになりました。
開発にあたっては、私は物理学に忠実に従い(どうやっても従うしかないのですが)、「レコードの表面の粗さ(溝)を正確に測定する機械」を目指すことに専念しました。「レコード毎のバラつきの調整」「正確な情報を読み取るための剛健な作りが必要」など、様々な課題が山積みであったのですが、試作を重ねていくごとに改善を得、その結果レコードを何度再生しても削れない程の精度を実現できたのです。
昭和58年12月13日、テクニカ・ギャラリーにて「T1(オーディオテクニカの機器を含むセット名)」の名前で発表したプレーヤー7号機は、各方面の方々に高評価をいただき、ひとつの節目を迎えました。結果的に現在の最終型番である7号機までに、3億円もの予算が必要となりました。
プレーヤーの開発にあたり、様々な方々のご支援をいただきました。決して私のみの力では成しえない成果であったと思います。すべての方々に感謝するとともに、多大なるご理解とゆるぎない信念の基、プレーヤー開発の機会を下さったオーディオテクニカの松下秀雄様(オーディオテクニカ創業者)には、改めて感謝の意を表したいと思います。