寺垣スピーカーの発想・原理 1
「物質波スピーカー」「波動スピーカー」と世間で呼ばれている、私の開発したスピーカーをご存知の方もいらっしゃると思います。私がそのようなスピーカーを開発することになったきっかけや、当時からの考え方をご紹介します。
科学的に実証されている理論ではないため、ここでご紹介するのは「どのような考え方に基づいて、私がスピーカー開発を始めたか」をお伝えします。
現象として「従来と違う音質」であるということは事実ですが、なにぶん一瞬で消えてしまう「音」に関してのことなので、怪しく思われる方も多いでしょう。
科学的な根拠や、実証の研究に興味のある方はコラム「慶應義塾大学の武藤教授の研究」をご覧ください。
私の考察する原理は経験的に開発を行ってきた上での仮説になります。今後も同様の原理に関しては株式会社Teragaki-Laboを中心に研究を進めてまいります。
開発のきっかけは「スピーカーがない」
私がスピーカー開発を始めたきっかけは、アナログプレーヤーの開発が一段落したときに「このプレーヤーを再生するスピーカーがない」と感じたことからです。
傲慢な話です。世にはタンノイ、JBLなど、歴史を持つスピーカーがあるはずなのに。
こう思ったのは、私が元々オーディオ業界、オーディオ愛好家ではないからです。もしオーディオに心酔していた場合、既にある権威を基準に物事を考えてしまうでしょう。
そして、プレーヤーの開発で「自分が納得して開発するには、自分でやるしかない」という考えを持っていた私は、ゼロから考えることにしたのです。
閃き
とにもかくにも、スピーカーの必要性は感じ、試行錯誤をしていたのですが、決定的にひらめいたのは、自宅で寝ていたときです。
布団から「時計のゼンマイ音」が聞こえる――。
60年以上前、私が子供のころ我が家には機械と呼べるようなものは、時計ぐらいしかありませんでした。不思議です。そのときに感じた感覚を、遠い昔に体験していた感覚が時を超え、私の脳に改めて蘇ったのです。
そのとき、音を再認識する閃きが生まれたのです。
そして、その「もう一つの振動」を表現するスピーカーが「より、音の本質に近いのではないか?」と考えるようになりました。
空気中の音は2種類の振動で伝わる
「音は空気の振動である」
波の進行方向に対して振動する波を疎密波(縦波)と呼びます。空気中の音の振動の波はこの疎密波(縦波)(右図A)で伝わると一般的に考えられています。
疎密波(縦波)は明確に観測ができる事実なので、「よし、音とは疎密波だ」と考えてしまい。そこから音について更に深く考えることをしなくなるのでしょう。
しかし、時計の内部のゼンマイ音が布団から聞こえたことを考えると、疎密波(縦波)のみでは説明がつかないのです。時計のゼンマイは時計の外の空気を振動させることはできません。ましてや寝そべって布団に密着している耳は、時計との間にある空気は遮断されているので、「空気の振動(疎密波)が耳に伝わった」とは言えません。
繰り返すと、疎密波のみで音が伝わるならば、この布団から聞こえたゼンマイ音はありえない音の伝わり方なのです。
つまり、音は疎密波(縦波)以外の伝わり方がある。
もう皆様はお分かりでしょうが、私が耳にしたのは「固体(時計⇒床⇒布団)を伝わった音」です。建築の世界などでは、防音に関する用語で「固体伝播音」と呼ばれております。固体を通る音。単純ですね。
しかし、固体のような弾性のない物体では、右図Aのような疎密波はほとんど発生しません。そこで「正確にどのような振動かはわからないが、隣り合う分子が音のエネルギーを伝えることで、音が伝わるのではないか?」と私は考えました。
私はその振動を当初は「波動」、その後「物質波」と名づけました。
武藤教授が私のスピーカーの音の特徴を研究して発見した「横波」と、私の「波動」「物質波」とで解釈で違う点は、私は「この音のエネルギーの伝わり方は指向性を持つ波ではないと思っていること」です。
隣り合った伝わった分子が振動すれば隣り合う分子がまた振動します。つまり、伝わる元となった分子も伝わった先の分子の振動の干渉を受けるのではないかと思うのです。
簡単に言うと、一方向(実際は360度ですが)にピーンと伝わるのではなく、もっと複雑にグチャグチャっと空間に広がるんじゃないかと言うことです。
※辞書にある「波動」そのままの意味「物質の振動が媒質を通して伝播する現象(Wikipediaより)」を使ったのですが、オカルトに勘違いされやすいので、その後「物質波」と呼び方をかえてみたのですが、これは他の意味と重なったため、更に混乱の基になってしまいました。
固体も気体も分子のカタマリ
そして、隣り合う分子が振動を伝えるならば、固体も同様に、液体も、気体も分子が隣り合っています。それならば「分子の結合の力は違うが、空気中でも同じような物質波(波動)は存在するのではないか?」
空気中の音は「疎密波」と「分子による振動の連鎖(「物質波(波動)」)」の混合で伝わる。
これが、私の音に対する基本的な考え方になりました。
オルゴールと下敷き
それでは、その「物質波(波動)」の存在をどのように確かめるか?そして、利用するか?考え試行錯誤した中で発見したのが「オルゴールと下敷き」の実験です。
オルゴールに下敷きをあて、下敷きを湾曲させると、音が増幅される「現象」を発見したのです。単にオルゴールに下敷きを当てるだけでも、音は増幅されるのですが、更にその下敷きを湾曲させることで、下敷きの音が更に増幅されます。この際に、オルゴールと下敷きを当てるのは一部分のみ(棒状のものでも可)です。(右図)慶應義塾大学の武藤教授によれば30dBの増幅が測定されました。
もし、下敷きから出ているのが、疎密波のみであれば、下敷きを抑えることで音の振動が止まる、または変わるはずです。しかし、下敷きを抑えてもまったく音は変わりません。つまり、疎密波以外の振動で音が出ているということです。
私はこの原理を利用して、30年もの月日をかけることになる、スピーカーの開発を始めることにしたのです。
※慶応大学環境情報学部の武藤佳野恭教授の研究をご覧下さい。
オルゴールと下敷きの実験から、「空気中の疎密波以外の音波が存在する=物質波(波動)」という考え方にいっそう確信を得て、「どのように物質波(波動)を発生させるか?」のヒントを得ることができました。
今後の研究
とにかく、新しい現象が発見されたならば、あとはそれを経験的、科学的に研究するまでです。
私が望むのは、より皆さんが「音楽を楽しむ」ことができる環境を生み出したいということです。
また、色々なことがわかりましたら、ご報告したいと思います。
2008.11.18
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図A「疎密波(縦波)」
波の進行方向と同じ方向に空気の分子が振動する。進行方向と同じ方向なので「縦波」と呼ばれる。進行方向に垂直の場合(下図)は「横波」と呼ばれる。
空気が濃い部分と薄い部分の波ができるので、「疎(薄)密(濃)波」(そみつは)とも呼ばれる。
縦波と横波