大地にしがみつく車
人と人は腹を割って初めて通じ合うことがありますね。
そう感じたのは、私が電機会社のA社にお世話になっていたころの出会いです。
私はガソリンで動く4輪の多目的運搬機械を製造する大手B社の本社工場にいました。
「ずいぶんいいもん食ってんなぁ」
数十年単位で前のことなのですが、そのときにかかわった仕事は、B社の重役室に各所から上がってきた統計データを表示する装置を設置する仕事でした。
工場は半端な広さではなく、そのときはすべてB社の食堂で昼食をとることになっています。
「ずいぶんいいもん食ってんなぁ」
料理の内容もさることながら、なんと銀食器!
世界中のバイヤーが買い付けに来るのでしょうから、接待仕様になっているのかなぁと、思いました。
さすが世界のB社。
そんな、プロジェクトの憩いである昼食に、たまたまB社のC課長と同席することになったのです。自由に意見交換をしているうちに、私はずいぶんと車の悪口を言ってしまいました。
「よく作りますねぇ」
そもそも、私は車はあんまり好きじゃないんです。
便利で不可欠なことは理解しているのですが、なんだか無駄な気がしてしまうのです。
詳しい説明は省きますが――車種や新燃料などでかなりばらつきはあると思いますが、確か車の総合効率は37%程度です。ピンとこないかもしれませんが、適当かつ大まかに言うと、車に乗ると「人間が1tに増量した上で、改めて運ぶ」という状態なのです。
それと危険なところですね。戦争中に爆弾の照準器を開発していた私が言えた話しではないのですが、これは危険です。時速100kmの速度で止まろうと思っても、制動距離(止まるまでの距離)は50~60m。かなり先まですっ飛んで行きます。
よく作りますねぇ。
今でこそ、常識的に車の制動距離を受け入れてますが、これはかなり危険な代物なんですよ。実際。
あと(当時の)デザインがかっこ悪かった。
外車のようにデザインに思想が出てないというか。
とにかく、あの丸ライトはかっこ悪かったです。
私なら、まるで道路を光学スキャンをするかのような――そんなライトをこさえます。舐めるかのように地面を照らし進む車体。
かっこいいですね。
当時の私は勢いに任せて、昼食中にこんな車に対しての偏りに偏った意見を、C課長に伝えてしまいました。
「考えてないじゃないですか!」
ひとしきり車を腐した後で
「ブレーキは精一杯なんですよ!寺垣さんならどうするんですか?」
とC課長に言われました。
そこで答えました。
私「吸盤ですよ。」
C課長「?」
私「つまり、あんなタイヤの接地面積じゃ、どうがんばっても止まるまでの距離には限界があるじゃないですか?だから積極的に地面にしがみつくために、車体の底に吸盤をつけるんです。」
話している内にのってきました。
私「スイッチを押すと、仕込んでおいた火薬が爆発し、車体下の吸盤に真空ができて地面にビター!っとくっつきます。まぁいっかいこっきりですが、しがみつくことで超緊急停止が可能なんです。」
C課長「・・・」
C課長は(おそらく)真剣に考えた後に言いました。
C課長「・・・誰が押すんですか?」
私「?」
C課長「誰がそのスイッチを、どんな判断で押すんですか!?」
私「・・・。」
C課長「考えてないじゃないですか!寺垣さん!全然考えてないじゃないですか!!」
私「・・・あと、世の中にある全車両に取り付けないと、超緊急停止時は後部の車が、確実に突っ込んできますね。」
それから、C課長と私は妙に仲良くなりました。
方角が間違っていても並んで全力疾走することで生まれる友情。
腹を割って話すと芽生える何かがありますね。
ちなみに余談です。
これだけ言っといて悪いのですが、車のデザインのラフ画を描くのは割と好きです。気が向いたときに描いていたのですが、どうもメッサーシュミット(第2次大戦時のドイツ軍戦闘機)みたいになってしまいました。
先取りしすぎでしょうか?
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2009.1.16